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僕がまだ子供の頃、ごくごく一般庶民の我が家には不釣り合いなほど大きな白い秋田犬がいた。背中にのって得意げな表情している小さな僕の写真だってまだ家のどこかに残っているはずだ。彼女の他界後も一緒に暮らす動物といえば犬ばかりだった。だから、猫好きな自分なんて1mmだって想像することさえできなかった。それがねどうなの。世の中に魔法ってものがあるとしたらそれを正しく行使している唯一の生物、それが多分なんというか猫なんだろうね。
ミート・ミー・アット エビス
平成に変わってからずいぶん時間がたつのにおどろくほど昭和感の強いやきとんやが気に入っていた。記憶の中の床は当時でさえ珍しい土間だ。煙の充満する店内で客の足の間を器用に避けながら歩いていく小さな影。そのころ恵比寿にあるあの店には、いつだって子猫たちの姿があった。
「お母さんがでかけてる間に連れってっちゃってくださいね」
手渡された妙にしっぽの短いその子は腕の中で大きなあくびをした。チビのくせにもう歯が生え揃ってるんだねこいつらは。僕はぼんやりとそんなことを考えていた。
新しい家族が気に入ってくれるといいのだけど。そうじゃなけりゃお互いにちょっとね。心のなかでそうつぶやいた僕を、彼女は不思議そう目で見上げていた。